『BOMBAY SAPPHIRE WORLD’S MOST IMAGINATIVE BARTENDER 2015
世界大会レポート』

ボンベイサファイアの世界大会のコンセプトは「ワールドモストイマジネイティブバーテンダー」、世界一想像力のあるバーテンダーを探す大会。
今回は合計六日間、スペインのマドリッドとイギリスのロンドンを旅行しながら大会を行いました。大会の構成は部門チャレンジが二つ、そして最終日のグランドファイナルでは、旅行で得たインスピレーションを元に作成したカクテルを発表するという内容。
初日はマドリッドにある1725年から続く世界最古のレストラン「ボティン」にて、ウェルカムパーティーからスタート。和やかな空気の中、8カ国から集まったバーテンダーやロンドンやドイツから来たメディアの方々と互いに自己紹介し合いながら過ごしました。二日目は青空市場での買い物からスタート。ここで買った物はこの後に行われる競技のどこに使用しても良いというルールです。私はこの日の夜に行われるジントニックチャレンジのためにお香と香炉、またボンベイサファイアカラーのスカーフを購入。その後、電車で地中海沿岸のアリカンテに移動。そして山の中腹にあり、地中海が一望できるレストランのテラスにて最初の競技を行いました。お題は「ジントニックの再発見」で、制限時間は5分。私は1790年頃、ボンベイサファイアトニックがインドでマラリア対策の薬として飲まれていたことに着目。当時のボンベイ市の病院をイメージして、お香を焚き、試験管を置き、私は白衣を着て医者となり、審査員を患者に見立てて問診をしながらプレゼンテーションを行いました。
材料はボンベイサファイア、クローバーシロップ、ローズマリービターズ、トニックウォーター、それをボトルに詰めて患者に渡す演出をしました。プレゼンは盛り上がり、味も審査員から評価をいただけたようで、このチャレンジは1位でした。その後、ロンドンのメディアの方に、「あなたは今まで見た日本人バーテンダーと違う雰囲気を持っている」と言われたことが印象的でした。


三日目はバスでボンベイサファイアの材料となっているレモン農家やアーモンドの生産地を見学、そのままロンドンへ移動。生産者の熱意とプライド、そしてスペインの自然を感じた一日でした。


四日目はロンドンの五つ星ホテル、モンドリアンホテルで目覚め、飲食に関する味覚、聴覚、視覚など五感に関するセミナーからスタート。その後、ロンドンの有名なバー、ナイトジャーからマリアン・ベケさんが来てガーニッシュのセミナーを行ってくれました。カクテルの歴史や名前からインスピレーションを受け、器や材料、ガーニッシュまで作り上げる想像力は勉強になりました。


五日目は朝からバスでラバーストークミル蒸留所へ向かいました。蒸留所は目が覚めるような美しい自然の中にあり、赤いレンガの建物、芸術品ともいえる温室、磨き上げられた蒸留機、どれも素晴らしく忘れられません。そして蒸留所の中を一つひとつ丁寧に案内され、ボンベイサファイアの核であるヴェイパーインフュージョンが行われるカーターヘッドスチルも見学させて頂きました。


そして、蒸留所内のバーでマティーニチャレンジを行いました。お題は新商品、スターオブボンベイを使ったシグネイチャーマティーニ。私はヴェイパーインフュージョン製法である気体をバスケットの中に通すことからインスピレーションを得て、マティーニに不可欠なレモンピールをシェイカーの中でひねり、レモンの香りをカクテルの中に通すという新しい提案をしました。優勝はロゼのベルモットを使用したフランスの女性バーテンダーでしたが、ブランドアンバサダーが私の作り方の詳細を聞いてきてくれたので、少しは記憶に残ったのかなと思っています。そしてその夜はロンドンのバーツアーがあり、アメリカンバー、ヴォーフォートバー、アルチザンバーを見学しました。

最終日、この日がグランドファイナルです。ハイアットリージェンシーホテルのバーを貸しきり、お昼からスタート。各国のバーテンダーが順番に披露していき、6番目が私でした。まずはバカルディジャパンさんの協力を得て制作した私の紹介ビデオ(http://youtu.be/8bTGf6biGOQ)で始めました。
使用した材料はボンベイサファイア、柚子の皮と生姜を漬け込んだアロエリキュール、バイオレットリキュール、レモンジュース、オリジナル檜ビターズ。スペインの自然からインスピレーションを受けたこのカクテルは、材料がすべて森の構成要素になっています。生姜が根、檜が木、アロエが葉、柚子が果実、バイオレットが花、ここに土の要素を加えたかったので、グラススタンドの中に一時間かけてローストしたスペイン産アーモンドを入れ、香りで土を表現しました。
また、ラバーストークミル蒸留所に隣接している温室から着想して、グラススタンドの内側にカクテルの材料を飾り、外側からお客様が見て楽しめるようにしました。全力を尽くしましたが、私の挑戦はここで終わりました。

優勝したのはオーストリアの女性バーテンダー、シグリッドさん。彼女はアルプス山脈の土のシロップを使ったカクテルを披露しました。彼女とは旅行中にいろいろ話す機会があったのですが、とにかく勉強家。カクテルの歴史はもちろん、カクテルにおける酸味の変遷まで知っていたのです。負けたのは悔しいけれど、彼女の優勝には納得しています。

去年、今年と二回、世界大会に挑戦させて頂きました。まだ少しですが、世界では二つのことが求められていることがわかってきました。一つ目は「新しさ」です。ボンベイサファイアの大会は毎回、特に顕著で、冒頭に書いたようにコンセプトは想像を超える新しい味。今回、お客様の想像を超える新しい味を提供できたかと言われれば、私のアイデアは未熟でした。私はこの新しさを生み出せることこそカクテルの最大の魅力だと感じています。誤解を恐れずに言えば、カクテルにはワインや日本酒などとは違う大胆な新しい味やアイデアを生み出す楽しさがある。だから、私はまだまだ大胆に挑戦したい、世界が驚くような新しいことに。
二つ目は、「個人の個性」です。“日本人にはおもてなしの心があり、丁寧である。”確かにそれは事実かもしれませんが、世界のバーテンダーはSNSなどを利用して常に学んでおり、今ではこれは日本だけではなく世界的常識になりつつあります。今回、アルチザンバーに行ったとき、カウンターの中に世界のトップバーテンダーの1人、シモーネ・カポラーレさんがいらっしゃいました。彼の動きの丁寧さはもちろん、カウンターにいる全てのお客様に、「美味しいですか?楽しんでますか?」と聞いて回っています。そして、パフォーマンスや味わいから、彼の人となりが伝わってきます。この経験やメディアの方々との話を通して感じたのは、国別ではない、世界に通じる個性が求められているということです。
今後は、自分が学んでいる茶道にしっかり取り組みながらも、一方で世界を意識したバーテンディングを研究し、一期一会のように毎日の意味を理解して自分を磨いていきたい。そして将来、世界と渡り合える自分ができることを信じて、日々精進していきます。最後になりますが、バカルディジャパンのスタッフの皆さんには大会を通じて大変お世話になりました。この機会を糧に、さらに成長したいと思っていますので、今後も見守って頂ければ幸いです。

ザ・ペニンシュラ東京 中村 充宏