■20th ASIA-PACIFIC バーテンダーオブザイヤー カクテルコンペティション2011 視察報告書
平成23年8月22日
HBA国際部・小森谷弘
【参 加 者】小森谷弘(国際部)、富田上総(東京支部/ホテルニューオータニ)
【視察機関】主催:シンガポール・バーテンダー&ソムリエ協会(ABSS)、シンガポール・ホテル協会(SHA)
【期 日】2011年7月31日(日)~8月5日(金)
【視察スケジュール】
8/1(月) | ウエルカムディナー(カクテルコンペティション・ブリーフィング含む) ~NUSS サンテックシティ・ギルドハウス~ |
8/2(火) | 23rd Singapore National Cocktail Competition 2011 20th ASIA-PACIFIC Bartender of the Year Cocktail Competition 2011 Semi-Finals ~シンガポール・フライヤー・グリークシアター(観覧車施設内)~ |
8/3(水) | 20th ASIA-PACIFIC Bartender of the Year Cocktail Competition 2011 Grand Finals ~フラマ・リバーフロント・ホテル・ボールルーム~ |
【視察レポート】
HBAが、このアジアパシフック大会(APCC大会)に初めて参加したのは、1992年のことである。当時、IBA副会長を務められ、HBA常任理事でいらっしゃった、故・澤井慶明氏のご尽力の賜物であった。澤井氏のご遺志を継いで頂き、日本における国際バーテンダー協会(IBA)との窓口である日本バーテンダー協会(NBA)、特に、国際局・上野秀嗣様の御厚意のおかげをもって、今回も、この大会に参加できることに、まずは、深く感謝を申し上げたい。
本大会は、毎年、夏期に開催されており、今年で20回目を迎える。回を重ねる毎に、大会の規模が大きくなり、IBA行事の中でも大きなウエイトを占めている。母体組織であるABSSシンガポール・バーテンダー&ソムリエ協会(会長:Mr. Michael Cheng)は、現在、IBA・国際バーテンダー協会(56参加国、37サポート企業)会長・Mr. Derrick Leeを輩出する優秀なバーテンダー先進国である。また、観光立国であるこの国では、ホテル業界の影響力が甚大であり、この大会には、シンガポール・ホテル協会(SHA)のサポートもついており、参加各国のホテル協会に属している加盟ホテル従事者は大会に参加することが可能な為、我が協会のメンバーにも、出場資格が与えられるのである。大会は、3日間に渡って開催される。以前は、ABSSが主催であり、IBAに加盟する主にアジア・パシフィック地区の国々が中心であったが、2008年にIBA公認の大会へ進化した。また、同時期に開催されるIBAトレーニングセンター・エリートバーテンダー・コース(バーテンダー・スクール)との関連で、近年、ヨーロッパ各国からも多く参加し、位置づけとして、アジアで行われる最大級のIBAバーテンダー競技会と考えられている。各国とも、最大でクラッシック部門1名、フレア部門1名の参加が可能。今回、HBAは、フレア部門での参加となっており、本年2月に行なわれた「第1回 HBAフレア・チャレンジ2011」優勝者・富田上総 君(ホテルニューオータニ)を代表選手とした。クラッシック部門は、NBA・山本悠可氏(関東地区本部・銀座支部、BAR OPA GINZA)が代表選手である。また、HBA国際部として、私、小森谷が4年ぶりに本大会への視察を命じられ、常夏のガーデンシティへ赴いた。
ここで、IBAトレーニングセンター・エリートバーテンダー・コースJ.W.C.2011に触れておく。主催:IBA&ABSS、後援:Shatec Institutes(観光、調理師、ホテル専門学校)、協賛:タイガービアー社(メインスポンサー)、ペルノ・リカール、モエ・ヘネシー・ディアジオなど6社。コース期間は、7/24~8/4の12日間。授業は、朝9時から夕方7時迄行われ、公用語は英語。今回は、フラマ・リバーフロント・ホテルを会場とし、宿泊先や食事も費用に含まれる。酒類やビバレッジ商品知識のみならず、BVリスト作成やスタッフのシフトコントロール、そして、経営マネージメントまで、バーの業務全体を系統立てて学ぶ。アジア・パシフィック地区だけでなく、ヨーロッパ諸国からも参加がある。様々な国の受講者と親交を深めながら、国際感覚溢れるエリートバーテンダーを養成することも大きな目的。受講者は、費用S$1,800(約12万円)を支払い(NBAでは自己負担)、IBA所属の各国バーテンダー協会の推薦を受けなければならない。また、教育という観点から年齢制限を設けており、28才以下を中心とする。コース終了時に筆記試験結果・プレゼンテーション能力・受講態度の評価をもって、「ベスト・スチューデント」(全参加者の中で、最も得点を得た受講者)、「イーグル・アワード」(28才以下で、最も将来性、統率能力を発揮した受講者)の表彰を行う。IBAは、JWコースをこの極東エリアだけでなく、ヨーロッパ、北米、南米と4ヶ所で展開し、カルキュラム内容は均一としている。今年は、ヨーロッパ(イタリア・ベニス)と極東エリアを統括するこちらシンガポールで開催された。コース受講者と同時進行でAPCC大会の選手を掛け持ちさせる協会組織もある。NBA選出のAPCC選手はコース修了者が多い。
8/1(月) 初日、選手や大会役員は、“世界一便利の良い空港”と称されるチャンギ・エアポートにて、シンガポール・バーテンダー&ソムリエ協会(ABSS)の方々からお迎えを受け、選手や大会役員は、宿泊先へチックインを行なう。部屋はツインベースで、富田君はマリーナ地区のパンパシフィック・ホテル。台湾のフレア選手・MR. Changとルームシェアとなった。
さて、夕刻、選手や各国協会代表の顔合わせとブリーフィングを兼ねたディナーで一連のプログラムがスタート。ここで、NBA国際局・上野秀嗣氏(日本バーテンダー協会代表)、NBA選手・山本悠可氏(BAR OPA GINZA)と合流。ディナーは、National University of Singapore Societyが保持している会員制レストラン「NUSS サンテックシティ・ギルドハウス」にて開かれ、洋食ブッフェ。今回は、クラッシック部門12名に加え1名(翌日のシンガポール国内大会の優勝者)、フレア部門9名+1名(同)が選手としてエントリーする。このウエルカム・ディナーは、シンガポール唯一の酒造メーカー“タイガー・ビール”が例年通りのスポンサー。そして、ここに前述・IBAトレーニングセンター・エリートバーテンダー・コースJ.W.C.2011の受講生・約40名(内、日本人3名)とその学校関係者が加わり、恒例のビール一気飲みなどで、初日より大変な盛り上がりとなる。
そのような雰囲気の中、同じ会場で、翌日の予選出場作品のレシピ・材料・グラスなどの最終チェックとブリーフィングが行なわれた。アテンド担当のABSS理事・Ms. Sylvia Yeeと各選手との間で、確認作業が進む。Ms. Yeeは、毎回のことであるが、選手のフォローが上手であり、細かい質問にも丁寧に答えてくれ、大会への不安を和らげていた。
シンガポール・ホテル協会(SHA)が主催の為、協会に属すホテルからの協力があり各国選手や大会役員への部屋の提供がなされている。富田選手がパンパシフィック、山本選手がトレダーズ(オーチャード地区)と別々の宿泊先となる所以である。頂いたリストには、30名以上の名前と15ホテルの記載があった。これらのメンバーの宿泊ホテルとコンペティション会場間を結ぶ移動手段として、エリア別ピックアップ・バスを採用。この種のコントロールもMs. Yeeによるもので、彼女の能力の高さは、ここ数年に渡りお世話になった方々(日本チームのみならず)から良く知られる所であり、各国バーテンダー協会の代表からも慕われていた。
~予選会場Singapore Flyer 周辺~
8/2(火) 2日目午後まで、フリー。観光立国シンガポールを各々楽しむ。夕方からプログラムが行われた。会場は、「シンガポール・フライヤー」(Singapore Flyer)、マリーナ・エリアにある世界最大級の観覧車で、高さ165mを誇る(超高層ビルの42階に相当)。360度全方向の眺めが圧巻である。この観覧車、設計は日本の黒川紀章建築都市設計事務所がデザインを、現地シンガポールのDP Architectsが内装や構造等を担当し、2008年3月に開業。乗客用のカプセルは28個あり、空調や紫外線保護が完備。各々のカプセルの定員は28名と多く、1周には約30分を要する。カプセル内では、カナッペやカクテル等の提供も行われ、結婚式や誕生日パーティなどの貸切利用も可能。周辺は、F1レース、シンガポール・グランプリのサーキット・コースともなっており、グランド・スタンドを眼下に臨む。また、このマリーナ地区には、シンガポールのシンボル・マーライオンやエスプラネード・シアター(通称:ドリアン・シアター)、そして、昨年鳴り物入りでオープンしたマリーナ・ベイ・サンズ(屋上がソフトバンクのCMで有名)も至近距離。その観覧車の足元にあるパビリオン「グリーク・シアター」屋外特設ステージがコンペティション会場である。そのステージ脇(当然、こちらも屋外)で選手がガーニッシュのスタンバイやフレア練習を行い、ステージの裏側では味覚審査と集計作業が進む。まるで、夏祭りの舞台裏のような騒然とした光景が広がっていた。手元の照明も少なく、スタンバイに携帯電話を光源とする選手も。過去のレポートにも記載があったが、この状況下では、選手にはとにかくタフさと臨機応変が求められると痛感する。国内の綺麗にお膳立てされたステージとは違うのだ。しかし、選手は、皆、平等であり、この状況下を克服しなければ、翌日への決勝ラウンドへ進めない。
日が暮れる19時頃、大会が始まる。まず、シンガポール・ホテル協会(SHA)が運営するShatecスクール在校生によるカクテル・コンペティションが8名で行なわれた。ノンアルコール部門であるが、今回のAPCC関係者とつながりがある生徒もいる為か、コンペティションは真剣そのもの。可愛らしい未来のバーテンダー達に声援が飛ぶ。
そして、シンガポールの国内大会「23rd Singapore National Cocktail Competition 2011」である。年々、進化を見せるこの大会、今回、カテゴリーは4部門。まず、モクテル(ノンアルコール・カクテル)部門、クラッシック部門、フレア部門、そして、スピード・ボトルキャップ・オープン(ビール栓抜き競争)部門。進行は、男女ペアによる軽快な司会により行なわれ、カクテルレシピが先にまず紹介され、演技へと移るスタイル。審査は、ABSS役員2名が1選手の目前で、テクニカル審査を担当。味覚審査はバックサイドでのブラインドティスティング方式を採用し、ABSS役員3名が担当。競技は、フレア部門は1名ずつ、その他の部門は2名ずつ行われ、2杯分のカクテルを調合し、1杯は完成品、もう1杯分を3つの小グラスに分け、試飲用とするIBAルールを採用。国内予選会は、モクテル部門6名、クラッシック部門9名、フレア部門4名、スピード・ボトルキャップ・オープン部門4名がエントリーし、技を競った。スピード・ボトルキャップ・オープンとは、つまり、「ビール栓抜き競争」である。メインスポンサー・タイガービール10本をテーブル上に並べ、一気に栓を抜きタイムを競う。以前から余興的に行ってはいたが、今回には一つの部門となっており、優勝者には、賞金も他の部門と代わらぬ額(S$500)が授与された。そして、クラッシック部門、フレア部門の最優秀者1名がその後に行なわれるAPCC予選会へと進む(この2つの部門の優勝者は、2012年IBA世界大会への出場権や渡航費も進呈される)。
さて、いよいよ、「20th ASIA PACIFIC Bartender of the Year Cocktail Competition 2011 Semi-Finals」(予選会)である。クラッシック部門では、先ほどのシンガポール国内大会の優勝者を含めた13名(中国、台湾、フィリピン、タイ、スリランカ、ベトナム、イタリア、マレーシア、シンガポールなど)の演技が行われ、決勝に進む7名が選考される。先ほどの国内予選会と同様のレギュレーションであり、ステージ上は、2名撃ち。NBA・山本悠可選手は、エントリーNo.3と前半に出場。日本国内で数々の大会を制した女性チャンピオンだけに、この独特の雰囲気の中でも落ち着いた演技を見せ、カクテル「フェニックス」を仕上げていった。
~クラッシック部門・NBA山本悠可選手<予選>~ ~カクテル・Phoenix~
続いて、フレア部門10名の演技である。ここまで、数多くの部門が出場した為、タイムスケジュールは、大きく乱れ開始から既に3時間が経過しようかという22時近くにスタート。しかし、観戦客は、益々、増えてヒートアップしていく。HBA富田選手は、エントリーNo.1。三味線をアレンジした日本情緒漂う曲で観客を沸かせる。しかし、緊張の為か、同じ社内にいる者としては、いつもの技のキレを感じなかった。但し、彼には、一つだけアドバイスをしておいた。「IBAルールだと味覚の点数配分が大きいはずである。ここは、取りこぼしのないようキッチリ稼いでいこう。」ともあれ、富田選手、カクテル「アジアン・ソウル」を創作する。さて、こちらの部門は、忍者姿で観客を沸かせた台湾の選手、モンゴルから初出場の選手は、素早いボトル回しと柔らかい身のこなしで観客を魅了した。ただ、演技に集中するあまりにタイムオーバーをしてしまう選手や難易度の高い技に挑戦しボトルを落下させて破損してしまう選手が、多々、見られたことは残念であった(フレア部門では、セットアップ5分、演技5分、オーバータイムには、減点が課される)。果たして、予選結果は、以下の通り。
クラッシック部門---日本、台湾、ベトナム、イタリア、マレーシア、シンガポール、デンマーク<7名>
フレア部門---タイ、台湾、中国、日本<4名>
HBA富田選手は、自分自身でも演技に納得がいっていなかったらしく、思いがけない予選突破に歓喜していた。「下手なクラッシック部門のものより、カクテルの完成度が高かった。」とは、味覚審査員をお務めになったNBA上野国際局長から頂いたコメントである。
今夜の大会、部門は7つの部門、出場選手は総勢54名。当然、時間は大幅に延び、全プログラムが終了したのは、深夜0時過ぎであった。日本選手が二人とも予選突破し、翌日の決勝へのぞみをつなぐ。
~フレア部門HBA富田上総選手<予選>~ ~カクテル・Asian Soul~
8/3(水) 3日目も本選は夕方からである。決戦に向かう富田君へもう一つのアドバイスを送った。「予選時とジャッジは、あまり変わらないはずである。昨夜とは、違う演技が何か一つでも出来ないだろうか?」それらを踏まえ、気温35℃を超す気温の中、富田選手、宿泊ホテル付近でたっぷりと練習を重ねてから、会場へと入る。今回の会場は、フラマ・リバーフロント・ホテル。運営会社のフラマ・インターナショナルは、シンガポール資本のホテル・グループ。同国を中心にアジア・パシフィックに40ホテル、計7,500室を越す客室を保持する。その旗艦ホテルが、このフラマ・リバーフロント・ホテルだ。
まず、ボールルーム前のホワイエにおいて、カクテル・レセプション(アペリティフ)である。各国協会代表、選手、エリートバーテンダー・コース受講生、スポンサーなど大会関係者が加わり、予選時の健闘を讃えたり、記念撮影や連絡先の交換をしたりで、既にお祭り騒ぎである。このカクテル・レセプションというのは、日本では、あまり見られない光景だが、欧米ではガラ・ディナー前に必ずもたれ、参加者同士の情報交換となる貴重な時間と捉えられている。
そして、一同、「20th ASIA PACIFIC Bartender of the Year Cocktail Competition 2011 Grand Finals」ボールルームへと移る。大会は、ABSS協会関係者や各国応援団だけでなく、エントリー選手も中華正餐の円卓を囲みながらの観戦で、総勢370名超のディナーを兼ねたオープンな雰囲気なカクテル・コンペティションである。冒頭、シンガポール・バーテンダー&ソムリエ協会(ABSS)会長・Mr. Michael Cheng(グッドウッドパーク・ホテル料飲部長)によるご挨拶から始まった。各国選手への労いと後援したIBA関係者への感謝の言葉に加え、スポンサーを務めた世界的な飲料メーカー12社へのバックアップへ対し社名を一社ずつ読み上げ、深い感謝の意を表した。その後、前述・IBAトレーニングセンター・エリートバーテンダー・コースJ.W.C.2011の表彰が行なわれ、今年は、「ベスト・スチューデント」(最優秀生徒賞)にイタリアの受講者が、「イーグルアワード」(28才以下で、最も将来性、統率能力を発揮した受講者)に中国・香港の受講者が、それぞれ輝いた。
その後、いよいよファイナル競技がスタート。進行は、クラッシック部門2名撃ちにフレア部門1名の演技×3セットとメリハリがある為、観客の集中が途切れない。昨日の予選で一安心といったところか、異国の雰囲気に親しんだのか、はたまたステージ自体が普段のホテルの整ったタイプの為か、各国選手にも、一様に安定感が見られる。さすがにタフな予選を勝ち抜いた選手達であると感心。審査は、予選時と一切変更はなく整合性が見られた。クラッシック部門のNBA・山本選手は、エントリーはNo.1とトップバッター。同じステージに強敵・台湾の女性選手が出場し、独特の演技に観客の注目が集まるが、山本選手、動じることなく、昨夜を上回るテクニックを披露し、大きな笑みで競技を締めくくった。
~クラッシック部門・Ms. Chu(台湾)と山本選手<本選>~
~クラッシック部門・NBA山本悠可選手<本選>~
フレア部門のHBA富田選手は、エントリーNo.4と最終組と打順良い。演技の冒頭、タイガー・ビール(今回のメインスポンサー!)をラッパ飲みし、気合の入った姿を見せ、会場内のボルテージは最高潮となる。予選時には見られなかったパフォーマンスである。「Tommy」のニックネームや「Nippon」コールも会場から飛びかう。昨夜とは打って変わり、彼の持ち味であるスピーディなボトル回しが冴える。終始、テンポよく演技が出来、ドロップ(器材やボトルの落下)は僅かに1回、本人も納得のためか、満面の笑顔で観客から拍手喝采を呼んだ。
~フレア部門・HBA富田上総選手<本選>~
最終結果は、以下の通り。
<クラッシック部門>
優勝:台湾・Ms. Teng Chi Chu カクテル“Blue Skyline”
準優勝:日本・山本悠可氏(NBA・関東地区本部・銀座支部・BAR OPA GINZA) カクテル“Phoenix”
3位:ベトナム・Mr. Trinh Quan カクテル“Grass on Haven”
<フレア部門>
優勝:台湾・Mr. Chen Yu Cheng カクテル“Golden Age”
準優勝:日本・富田上総氏(HBA・東京支部・ホテルニューオータニ) カクテル”Asian Soul”
3位:タイ・Mr. Keaw Yod Jane Thailand カクテル” Bumble Bee”
クラッシック部門では、山本選手と同組で演技をした台湾の女性バーテンダーMs. Chuが、観客の注目通り優勝を果たす。台湾オリジナルのオーバー・アクション的な演技は、確かに均整がとれていたが、世界レベルではそれほどに評価が高いのかと感じた(会場に於いて、カクテルの味覚面では、山本選手の評価はとても高かった)。
フレア部門では、台湾の選手が、忍者姿で観客を惹きつけ、金の扇子を上手に使い、選曲や演技、そして、一連の演出構成が素晴らしく、優勝に輝いた。Tommyも、HBAからの選手としては、前回・2009年に出場した喜納新氏(沖縄ロワジールホテル那覇)と同等の準優勝ということで、大健闘であった。今後の活躍に大いに期待が持てよう。
NBA山本選手も準優勝し、総じて日本チームには良好な結果であったといえる。しかし、台湾チームがクラッシック部門もフレア部門も共に優勝となり、しばらくこの優位性は続くのであろうか?資料によると、同APCC大会でフレア部門は、台湾が六連続優勝となっている。同国では、高校の学校教育の場で、このフレアテンディングを選択科目に採用していると伺っているが・・・ちなみに、今回のフレア・チャンピオン、Mr. Chengは、二十歳の若者である(偶然にも富田選手と同部屋であった)。 2007年に台湾WCCワールドカクテルコンペティション(IBA主催)が開催される前後から、バーテンダー育成の強化を進めてきたようだが、隣国にバーに強い理解を示す素晴らしい国が誕生しているのだ。
~フレア部門優勝・Mr. Cheng(台湾)~ ~フレア部門準優勝・HBA富田上総選手~
~ファイナル・カクテルズ~ ~チームNippon~ ~ABSS・ Cheng会長と~
【シンガポール・バー&ホテル事情】
Que Pasa
オーチャッド・ロードといえば、有名デパート、巨大ショッピングセンター、一流ホテルが立ち並び、東京では銀座といった感じであろう。そのオーチャッドから、ほんの少し奥に入ったところに、1910年代の英国植民地時代のプラナカンスタイル(中華文化にマレーや欧米文化を融合した建築様式)を保存した一角Emerald Hillがある。パステルカラーに彩られた独特の装飾がとても華やかで、多くは、ショップハウスに改造している。この地名をそのまま社名とした、Emerald Hill GroupがオペレートするワインバーがこのQue Pasa(スペイン語:What's Happenの意)。シンガポールでのワインバーの草分け的存在である。スペイン雑貨屋をイメージした内装は、ほど良い暗さで、セラー風に壁面を埋める2,000本超のボトルをバックにワイン樽を再利用したテーブルなど懐かしく温かい雰囲気を持つ。おすすめメニューは、スペイン風タパス。種類も豊富で値段もリーズナブル。APCC大会の以前の選手アテンド担当Ms. Ang(Ms. Yeeの前任者)が、ここでマネージャーを務めており、この時期、各国のバーテンダー協会の代表や選手が、多く訪れる。澤井さんも、この場をとても気に入っており、APCC大会の度に、立ち寄っていた。
Emerald Hill Groupは、この隣接した一画に、このワインバー「Que Pasa」、カクテルバー「No.5」、ビールバー「Ice Cold Beer」を運営している他、人気クラブ「dbl O」やセントーサ島にある「Bikini Bar」なども展開しているが、秀越なマーケティングで、どちらのFB施設とも、大盛況である。
Long Bar(Raffles Hotel)
Singapore Slingと言えば、世界中で最も有名なトロピカルカクテルの一つ。国民カクテルとも言えよう。発祥は、こちら「Long Bar」。1915年、バーテンダー・厳崇文(Ngiam Tong Boon)氏が創作した。英国の文豪、サマセット・モームが「エキゾチックな東洋の神秘」と形容した赤道直下のシンガポール湾の夕焼けを表現したカクテルと伝わる。バーの内装は、マレーシアのゴム農園がモチーフで、曲げ木造りのテーブルと籐椅子を配し、オリエンタルなムード満点。このカクテルを目当てに、ランチ・タイムから世界中からの観光客で溢れるが、もうひとつのお楽しみが「殻付き落花生」なのだ。ピーナッツは、つまみ放題となっており、ゲストは、殻を床に落としても良い。ゴミを落とすと罰金が科せられる美しいガーデン・シティで、唯一、散らかしてもお咎めがない楽園(?)へ食べかけの豆を目当てにときおり小鳥も舞い込む。さて、このスリング、近年は、バリエーション豊かとなり、こちらのバーでは、現在、7種類とアイテムが増えていた。ところで、ラッフルズ・ホテルの全レストラン&バーにて、このSingapore Slingが、1日に提供されるのは、2,000~2,500杯とのこと!このような一国を代表するカクテル、バーテンダー憧れの一杯である。ちなみに、このすぐ下にあるEmpire Caféのチキンライス(海南鶏飯:こちらの国民食)は、「シンガポールで最も洗練されて美味」と言われ、マンダリン・オーチャドホテルのチャターボックスのそれと双璧とされている。
Fullerton Hotel
今回は、予選会場が前述のシンガポール・フライヤーであり、マリーナ・エリアに位置すると事前に分かった。そこで、この地区に宿泊先をと考え、以前より視察をしてみたかったこちらの「Fullerton」とした。フラトン・ビルディングは、元々、1928年に海峡植民地・初代総統、ロバート・フラトンに因み建てられたシンガポールの文化財的な建築物である。90年代半ばまで中央郵便局として機能してきたが、再開発が行われ2001年1月1日にホテルへと変貌。外観は、ドーリア式の円柱が並びコロニアルな雰囲気をたたえた壮大なスケールで、特に夜間のライトアップ時には、威厳を感じさせる。内装は、現代的な色調かつラクジュアリー感漂う。ロビー周辺も大理石がふんだんに使われ、吹き抜けが高く開放感があり、ロビー内の人工池には錦鯉も。客室は28室のスイートを含む400部屋を保持し、部屋のサイズは最低でも42㎡と広い。スタッフのサービスは、全体的に控えめありながら、隅々まで行き届いている。至近距離にあるマーライオン公園やマリーナ・ベイ・サンズを望む湾内風景も美しい。また、周囲の国道は、F1レース、シンガポール・グランプリの市街サーキット・コースとなっている。ホテル予約サイトでも、必ず、上位にランクインするほど評価の高いホテルである。MRT地下鉄・ラッフルズプレース駅(金融商業区である)に近く、交通の便も良い。
ロビー階のカフェ「The Courtyard」では、吹き抜け天井の明るい光のもとで味わうアフタヌーンティーが評判。また、メイン・バー「Post Bar」には、以前、中央郵便局であった時のポストをエントランスに配し、内部のスタイリッシュ空間とのコントラストに遊び心が見られた。スリング系、マティーニ系、マドル系など系統立てたBVリストでカクテルに注力している姿勢を感じる。
運営会社SINOグループホテルは、香港にラグジュアリー・ホテルを5つ、シンガポールにこの「Fullerton」と「Fullerton Bay」と2つのホテルを有する。「Fullerton Bay」は、「Fullerton」と国道を挟んで目前のウオーター・フロントに2010年に新しくオープン。モダンで斬新な建築デザインと華麗なインテリアは、マリーナ・ベイの華やかさをより一層引き立てる。98室と少ない客室は、人気を呼び、現在、シンガポールで最も予約が取りづらい5ツ星ホテルである。
後記
私は、このアジア・パシフィック大会は、クラッシックの選手として参加した1993年、視察員として随行した2002年、2007年、そして、今回と四度の参加させて頂いている。また、IBA総会&WCCは、過去、二度(2002年、2003年)視察を行った。以前もレポートで述べたが、私が感じるに、IBAは、世界中のバーテンダーの協会を束ねているという半面、役員として実際に動かれている方々は、さほど、多くないということである。なぜなら、ボランティア精神を持ち、時間的にも資金面でも余裕のある人間(組織)でなければ、継続的に活動することができないのだ。現在、IBA会長がシンガポール出身であるが、アジアのバーテンダー組織は、一般に、統率が取れ強固で資金源も豊富であるということが理由の一つでもある。送り出す協会の強力なバックアップやサポートがないとIBAでは重責につけない。Kun副会長も台湾出身である。このようなアジアのバーテンダー協会を数多く設立した故・澤井慶明氏のご尽力、そして、鬼籍に入られてから5年が経つが、その圧倒的な影響力には、本当に頭が下がる。
さて、Mr. SAWAIという太いパイプを失ったのは、NBA日本バーテンダー協会も同様だが、新たな調整役として、素晴らしい人材・上野国際局長を送り出し、年々、存在感を大きくしている。我々・HBAは、今後いかにして、国際バーテンダー協会や海外のバーテンダー協会との関係を構築し、21世紀の国際的な舞台に乗ることが出来るのであろうか?大きな宿題を課せられた視察旅行であった。
以上
■「アジア・パシフィック・バーテンダーオブザイヤー・カクテルコンペティション2011」参加レポート
富田上総(HBA東京支部・ホテルニューオータニ)
APCCに出場することが正式な形で決まり、伝えられたのは5月の中頃だっただろうか。最初に小森谷常任理事からその話を聞いた時は、HBAフレアチャレンジで優勝をしていたこともあり、ある程度予想はしていたが、正直嬉しかった。フレア暦4年にして、ようやく出場出来る海外、国際大会。嬉しくない訳がない。今回この大会の正式な話が来る前から、自分なりにある程度APCCのフレアのレベル、大会動画や、審査における注意点などの情報は知り合いから聞いていた。この大会、過去のデータからすると、審査員がIBAの役員から構成されていることもあり、大会映像と順位を照らし合わせてみても、ANFAの大会とは若干の違いがある。その一つは、一個一個の技の難易度をとると言うよりは、総合的にその演出全体のショー的難易度をつけると言った感じだろうか。あともう一つは、観客のリアクションが大きく加点審査に影響するという事だ。減点審査はと言うと、年々しっかりとしてきている印象を受ける。そう言った点を踏まえつつ、今回自分なりにこの大会を攻略するポイントとして感じたのが、誰が見ても分かりやすい難易度。スムーズなルーティーン。自国を印象付ける"何か"。この大会においては加点で減点を補えると思わないこと。そして美味しいカクテルを作ることだ。
APCCのフレア部門には、HBAから過去2人出場している日本人がいる。京王プラザホテルの高野勝矢さんと、沖縄ロワジールホテル那覇の喜納新さんだ。共に入賞していて、高野さんは3位、喜納さんは準優勝と素晴らしい成績を残している。そして演技に関しては、過去2人に共通して言えるのが、自国をしっかりとアピールしているのがとても印象的だった。高野さんは侍、喜納さんは忍者、「じゃあ自分は?」ショー的要素が重要とされる大会だけに、これは今回正直非常に悩んだ。過去の選手とかぶってもイイから忍者の衣装を身に纏うか、それとも、もっと他に日本を印象付ける衣装で挑むか、ハッピ?祭り?牛若丸?武蔵坊弁?ドラゴンボール?空手?海外の人が安易にイメージできる日本の様々なものが思い浮かんだ。しかし、考えれば考える程、正直分からなくなってきた。自分がやりたいのはそんなことじゃない、純粋にフレアバーテンディングが好きで、液体、金属、ガラスからなる様々なバーツールを自在に操り、時にはジャグリングよりも遥かに高度なテクニックを、時にはスノーボードやブレイクダンスにも負けないスリリングでダイナミックなトリックを、そして味覚では決して表現出来ない興奮と感動を。。。そんなエクストリームスポーツにも引けをとらない、今のフレアバーテンディングをやりたい、日本の、自分のフレアバーテンディングを。抽象的かも知れないが、確実に自分の中でテーマは決まった。特別な衣装は要らない。その代わり、音楽は三味線などしっかりと和を取り入れる、あとは自分が今までやって来たフレアを確実に成功させることだ。そしてこの大会は非常に味覚審査の比率が高いという事をふまえ、職場の皆さんの知恵を借りつつ、カクテル作成に臨んだ。同時にその日から徐々に音作り、練習が始まっていった。
カクテル名 [ASIAN SOUL] | ||
BACARDI SUPERIOR | 1oz | |
MALIBU | 1/4oz | |
BOLS TRIPLE SEC | 1/2oz | |
MONIN Fraise | 2oz | |
OCEAN SPRAY CRANBERRY | 2oz | |
FRESH ORANGE JUICE | 2oz | |
Garnish: Orange peel |