『BOMBAY SAPPHIRE WMIB Competition 2013 レポート』 リーガロイヤルホテル セラーバー 清家 真衣
~はじめに~ 「チャンスの神様」は前髪しかないそうです。 通りすぎてからはつかめない…。 この度は、たくさんの方のお力添えとご縁のおかげで「世界大会」という大舞台に立たせていただきました。 これもこのような大きな「チャンス」をくださったバカルディジャパン株式会社様、選考会を始め、後押ししてくださったHBAの皆様のおかげです。 「スパイス」と言う言葉の語源は、ラテン語で“特別な種類”を意味する「SPECIES]。 ボンベイサファイアに使用される特別な10種類のボタニカルのように、10カ国の素晴らしい バーテンダー達に出逢い、そして私自身の「人生のスパイス」となるような貴重な経験をさせていただきました。 さて、その経験とは……。 以下ご紹介いたします。 5月12日(日) ~プロローグ/ファーストラウンド~ 「まさかのロストバケージ?!」 人生いつ何がどこで起きるかわかりません。 「まさか私が?」 そう!そのまさかが自分自身に起きるのです。世界大会という、初の大舞台で。 羽田からパリ、パリからフィレンチェへ。 18時間の移動時間を経て、意気揚揚とフィレンチェの空港へ降り立つと……。 「ない!無いんです!私のスーツケースが無いんです!!」 私は今回、荷物があまりにも多くなりすぎて、スーツケースを2つに分けていました。 先輩に借りた黄色のスーツケースには、白コート、着物、スーツ等の衣装類、ブレンダー、グラス、 いつもコンペティションで使用しているピンク色のスーツケースには、材料一式、ミキシンググラス、おろし金&茶筅党の備品、アメニティ、着替え、ファイナルコンペティションで使う予定にしていたグラスやその他備品。 待てど暮らせど、その材料一式入ったピンク色のスーツケースが出てこない。 少々パニックになりながら、空港のお兄さんに訴えるも、今ここではどうしようもならない。 次の便で出てくるかも?出てこないかも?わからない・・・。 とりあえず、出てきたら連絡いたします。 とのこと。 もう本当に、泣きたい気持ちでいっぱいになりながら、会場ホテルへ向かう途中の車の中で、 「あれ?私の運はイタリアへ行くことで終わったのかな?」なんて、ぼんやり考えていました。 「そんな…。絶対諦めたくない!!!」 やっとここまで、来させてもらったんだ。応援してくださっている方も、私に期待してくださってる方もたくさんいるんだ。 神にすがる気持ちで、父に泣き言を言う気持ちで、大師匠に電話を掛けました。 時差も関係なく・・・。 いつもの声を聞いたら、涙が出そうでしたが、ぐっとこらえて、現状報告をしました。 「お前、ジンジャーコーディアルは自分で創れ。スーツケースは諦めろ。途中スーパーに寄ってもらって、ないものは買えばいい。 コーディアルの創り方は…」 その一言で気持ちが切り替わりました。 スーツケースは次の便ででてくるかもしれない。そんな淡い期待をしていた私。 やるしかない! 出来ることを精一杯、置かれた状況でやるしかない!。 到着した会場ホテルは「IL BORRO フィレンチェの郊外、ずいぶんと山奥の中の広大な土地にあるホテルでした。 郊外なのでお店も数点しかなく、あいにくこの日は日曜日で、開いているお店はありませんでした。 どんどん、どんどん追い込まれる私。 着いたらすぐに、事情を話し、いるものをリストアップして借りられるようお願いしました。 焦る気持ちを抑えながら、レセプションパーティとボタニカルセミナーに参加。 刻一刻とコンペティション開始の時間は迫ってきます。
コンペティション開始まで、残り1時間。 ホテル内自室で、すべてのセッティングと着替え、ハーブのジンジャーコーディアルを作成。 時間短縮の為に、鍋でシロップときざみ生姜、ピンクペッパーを煮詰めたもので対応しました。 ファーストコンペティションでの私の順番は、運の良い事に一番最後。 気持ちを整える余裕も少し出来き、「もうこれ以上の悪いことは起きない。」 そう思うと、心の中で笑えました(笑)。 一番最後の順番ということで、全選手、全スタッフが見守る中でのカクテル作成と英語でのプレゼンテーション。緊張というよりは、むしろその場を楽しむ気持ちの自分がいました。 私は語学力が無い為、あらかじめ日本語でのプレゼンテーションを、ホテルの外国人の英語の先生に 英訳バージョンをレクチャーしてもらい、それを丸暗記していたのですが、 「今日はハプニングが起きました。ロストバゲージに遭いましたが、私のモットーはネバーギブアップです。 ジンジャーコーディアルは自分で創りました。」と片言の英語でのアドリブを入れたりしました。 「英語は片言でもいい。心を込めて、相手の目を見て、その場を楽しんでいただけるように。」 出発前にいただいた、アドバイス。 それを心の支えに、コンペティションに望みました。 結果はなんと信じられないことに、第1位。 この日の評価は、審査員の点数とオーディエンスからも投票制で加点するというものでした。 このファーストラウンドにおいての、グッドプレゼンテーション&グッドパフォーマンスとのことでした。 1位をいただけたことも嬉しかったのですが、何よりも皆さんが盛り上げてくださったこと、 気遣いの優しいお声掛け、伝えたいことが片言でも伝わったこと、実技がキレイと同じ選手に 言っていただいたことが本当に嬉しかったです。
5月12日(日) ~2日目~ 「セレンディピティ~発見~」 セレンディピティとは。 何かを探しているときに、さがしているものとは別の価値あるものを見つける能力・才能を指す言葉。 何かを発見したという「現象」ではなく、何かを発見する「能力」を指す。ふとした偶然をきっかけに閃きを得、幸運を掴み取る能力のこと。 この日は午前中にホテルを出発して、ジュニパーベリーの畑を訪問。車を1時間ほど走らせ到着した場所は……。野花がかわいく咲き、抜けるような空の青さと、輝く緑が対象的な、なんとも言えない風光明媚な場所でした。 「こんな素敵なところで、ボンベイサファイアのジュニパーベリーは栽培されているのか。」 昔と変わらず手作業で採集する姿に、温かみを感じました。 ボタニカルマスターに、採れたてたてのジュニパーベリーと日に当て乾燥させたジュニパーベリーの香りの違いを教えてもらいながら、私はこの時点である1枚の絵が心に浮かんでいました。 ランチはまるでピクニックに来たかのように、マットをひろげ大地の上でいただきました。 羊が放牧され、のどかな日差しの中で食べたサンドイッチが今までの人生の中で一番美味しかったサンドイッチでした。
午後は車でフィレンチェ市内へ戻り、ホテルへチェックインしてから、まずはファイナルに使用するためのバーツールを探しに皆で市内を散策。 ここで見つけたものは……。 私は実は、迷子のスーツケースの方に最終日に使うかもしれないグラスやツールを入れてました。 ロストバゲージにあわなければ、今ここでこのグラスやツールに出逢わなかったかもしれない。 何かを探していて、でも何を探しているのか自分でもわからなくて、それを見つけた時の「ワクワク」と「ドキドキ」を感じながら、とても嬉しくなりました。 先ほど想い描いた「心の絵」にぴったりのものを発見したのです。 この後は、グローバルアンバサダーのホテル内にてボタニカルセミナー。 ボンベイサファイアの「香り」の構成にスポットをあてたものでした。ウイスキーのように、ボンベイサファイアから感じられる香りの特徴をチャートやエッセンスボトルで教えてもらいながら、あらためて「香り高い魅力」を感じました。 また、ボンベイサファイアの香りを構築する特徴のひとつ、「グリーン」からはセロリのような香りもするとおっしゃっているのを聞いて、セロリを合わせたことは間違いではなかったなと思いました。
夕食後は市内のバーを訪問。 実際にカウンターに入らせてもらい、カクテルをつくりました。ここにある材料で何でも好きなものをつくってよいとのことで、皆それぞれ即興でオリジナルカクテルを提供してましたが、私は「ボンベイホワイトレディー」をHBAスタイルでつくらせていただきました。 ここで感じたのは、各国選手たちが常にエンターテイメント性を持って「魅せる」カクテルを自分も楽しみながら創っているということ。即興でも、複数のカクテルを手早く、おいしく作成してました。 私には「足りないもの」のひとつなので、今後の課題にしたいと思います。
5月13日(月) ~3日目~ 「プロのお仕事」 この日の午前はまず、ファイナルコンペティション用の副材料や生鮮食品を購入しに、フィレンチェ市内の一番大きな市場を訪問。皆、思い思いのものを購入してました。
次に当初、予定されていたのは「ピザつくり体験」でしたが、急遽かけつけてくださった、マルティーニのブランドアンバサダー、ジュゼッペ・ガロ氏のマルティーニセミナーに変更になりました。 実はこのジュゼッペさん、4月に行われた東京インターナショナルバーショーの時にご一緒させていただいた方。プレゼンテーションは「心」だと教えてくださった方です。まさか、イタリアで会えるとは思ってもいませんでした。 「聞き手側」に常に「目配り・気配り・心配り」をしながらの、抑揚のあるプレゼンテーションは本当に凄いと思います。 実際にマルティーニロッソを自分たちで配合させてもらったり、興味深い時間はあっと言う間に過ぎました。 この後は気持のよい晴天の中、リストランテのテラス席にて、ネグローニの権威、ルカ・ピッチ氏 によるネグローニカクテルセミナー。 ネグローニの歴史や貴重なお話を聞かせていただきました。ルカ氏のネグローニは1:1:1:の割合で配合するスタイル。この割合でつくるボンベイサファイアのネグローニは、香りの特徴のひとつである、「フローラル」な部分が引き出されると個人的には感じました。 セミナーの中で一番面白かったのは、ネグローニに「遊び心」を少し取り入れた提供の仕方。 ツイストのひとつだと思われます。ネグローニを、カクテルの語源でもあるニワトリの陶器製の器に入れ口ばしから直接口に注ぎ入れるというもの。楽しい演出はさすがだなと思いました。 また、この時いただいたカクテルが意外にもやわらかく感じたので、陶器製に何か秘密があるのか、銅製、ガラス製とどう違うのか、今後検証してみたいと思います。
ランチはあの有名な「ポンテ・ベッキオ」橋の下で。通常は立ち入り禁止になっているそうですが、特別に開放してくださって、きらきらと光る川の側で、チーズ、サラミ、ハムなどをパンに挟んでいただきました。皆でつかの間ののどかな時間をすごせました。
あすの会場となるホテルで行われ、スペシャルな写真となりました。 「プロの仕事」というものは、どんなジャンルでも凄いですね!。皆、まるでハリウッドの俳優のように撮ってくださりました。出発前にあらかじめ洋服のサイズを聞かれており、それぞれ衣装も用意されていたのですが、私に用意されていたものは、マリリンモンローのようなセクシーなドレスや、大人っぽいワンピースだった為、お子様体系な上、オールバックの髪型の為なんとまあ似合わないこと(笑)!。結局、自分で用意したジャケットにパンツにボンベイサファイア色のアクセサリーを合わせてもらいました。この時の写真は、一生の宝物です。
5月14日(火) ~エピローグ/ファイナルラウンド~ 「Fiorire(フィオリーレ)~Blooming Flower~」 いよいよファイナルコンペティション当日。フィレンチェ市内の超高級ホテル「IL SALVIATINO」で行われました。午前中まず、高級スパにて、全身マッサージ施術。各自、心身ともにリラックスしてから、準備、試作に取り掛かり、そして本番となりました。 私がファイナルコンペティションでお創りしたカクテルのネーミングは「「Fiorire(フィオリーレ)~Blooming Flower~」。イタリア語で、「花が咲く・開花する」という意味です。その他に「活躍する・実現する」という意味を持っているので、皆さまの人生にも、自分の人生にも花が咲きますように、夢や希望が実現しますようにとの願いを込めました。
<レシピ> ① ボンベイサファイア 50ml ② フレッシュグレープフルーツジュース 10ml ③ ハーブコーディアルクラシックジンジャー 10ml ④ カモミール&マリーゴールドシロップ(自家製) 20ml ⑤ イタリアンパセリ ⑥ フレッシュトマト&桜シロップ(自家製) ガーニッシュ:桜の塩漬け、イタリアンパセリ |
自身のカクテルのツイスト・アレンジということで「スパイス・ガーデン」に咲く「花」をコンセプトに創作しました。フィレンチェという町も、「花の都」「芸術の都」と呼ばれてます。 シロップにはハーブの花を用い、また少しだけ和のエッセンスを取り入れて、日本の国家である桜を咲かせました。カクテルの緑色は、ジュニパーベリーの丘の輝く色合いを表し、「Art」の意味合いで、ピクチャーフレームに市場で購入したパスタに使われるハーブを刻んだものを「絵」のようにしていれました。偶然にも着物と帯の色がカクテルとリンクしていたので、プレゼンテーションに取り入れたかったのですが、英語で言えませんでした。「語学」も今後の課題だと思っています。 結果は総合入賞ならずでしたが、自分では、心に描いたものを具現化でき、また美味しく楽しく創れたので満足しています。 そして、各国バーテンダーの方々、創作するカクテルもプレゼンテーションもとても素晴らしかった。 ホスピタリティーマインドにあふれ、そして「お客様を楽しませる」というエンターティメントいっぱいでした。 このコンペティションで、話す言葉や国籍、髪の色や肌の色も違う世界中の方々と親交を深められたことが大きな収穫となりました。 見た目や文化は違うけれど、皆同じバーテンダー。目指すところや想いは一緒なんだと感じることができました。また、自分に足りないものを再確認でき、自分の中の可能性もゼロではないこと、そして支えてくださる方々の存在が身に染みてわかりました。 今回得た「ご縁」は今後も大事に、いつか世界の友達のところへ会いに行こうと思ってます。
応援くださった皆様、本当にありがとうございました。 今後もどうぞご指導よろしくお願いいたします。 そして、また誰かが「チャンスの神様」をつかめますように。